表紙 前文 程順則 程摶萬 蔡温 蔡鐸 曽益 周新命 蔡文溥 蔡肇功
曽益(そうえき)
台江発棹
台江一棹泛清波
北闕遥瞻紫気多
自是聖朝饒雨露
満舡司唱太平歌
台江(ダイコウ)にて棹(さお)を発(はっ)する
台江(ダイコウ)に一(ひと)たび棹をさして清(うつくし)い波に泛(うか)ぶ
北闕(ペキン)は遥かに瞻(み)れば紫(めでた)い気(しるし)が多い
是(こ)こ自(か)ら聖(せい)なる朝(こうてい)の雨露(めぐみ)は饒(ゆた)かで
満(いっぱい)の舡(ふね)は司(そろ)って唱える太平の歌
過黯淡灘
舟行過黯淡
煙雨満江間
水急頻回首
灘高忽改顔
臣身軽似葉
君命重如山
万里神京迥
何辞更出関
黯淡灘(アンタンダン)を過ぎる
舟は行き黯淡(アンタン)を過ぎ
煙る雨は江(かわ)の間に満ちる
水は急で頻(しき)りに首(あたま)を回せば
灘(なだ)は高く忽(たちま)ち顔を改める
臣の身の軽いことは葉に似て
君命の重いことは山の如(よう)である
万里の神京(ペキン)は迥(はる)か
何(どう)して辞(や)めよう更に関(せき)を出ることを
過仙霞嶺
南来峻嶺壮雄図
雨雪重関嘆客途
地接雲霄通百粤
天開鎖鑰控三衢
層巒草長行人度
絶磴烟深鳥道孤
遥聴大竿鐘磬早
千年分水鎮浮屠
仙霞嶺(センカレイ)を過ぎる
南から来れば峻(けわ)しい嶺が雄(いさま)しい図を壮(おお)きくする
雨と雪に関を重ねて客(たび)の途(なか)ばを嘆く
地は雲と霄(かすみ)に接して百粤(ヒャクエツ)に通じる
天(そら)は鎖(くさり)と鑰(かぎ)を開いて三衢(サンク)は控(むこ)う
層(かさ)なる巒(みね)は草が長く行く人が度(わた)る
絶(きりた)つ磴(いわ)は烟(かすみ)が深く鳥の道は孤(ひっそ)り
遥かに聴く大竿(タイカン)の鐘の磬(こえ)は早く
千年水を分けて浮屠(ほとけ)を鎮(まも)る
遊霊隠寺
我愛西湖霊隠寺
寺門斜傍薛蘿開
蒲団竟日談興廃
花径由人数往来
草色遥連騎馬路
涛声長繞講経台
幸留一片袈裟地
不共滄桑化劫灰
霊隠寺(レイインジ)に遊ぶ
我(わたし)は愛する西湖(セイコ)の霊隠寺(レイインジ)を
寺の門の斜め傍(かたわ)らに薛蘿(よもぎ)が開(さ)く
蒲団(しきもの)をして竟日(まるいちにち)興(さか)え廃(すた)れを談(ろん)じ
花の径(こみち)は人に由(よっ)て数(しばしば)往来がある
草の色は遥かに連なる騎馬の路
涛(なみ)の声(おと)は長く繞(めぐ)る講経(おきょう)の台
幸いに留(とど)める一片(ひとひら)の袈裟(けさ)の地
共にせず滄桑(このよの)が劫(すべ)て灰(はい)と化(な)ることを
遊虎丘
曽夢江南好
探奇到虎丘
川原経万劫
花鳥自千秋
過客知携酒
看山竟浪遊
呉王歌舞後
回首使人愁
虎丘(コキュウ)に遊ぶ
曽(かつ)て夢みる江南の好(よ)さ
奇(めずらし)さを探して虎丘(コキュウ)に到る
川原は万の劫(としつき)を経(へ)て
花と鳥は自(おの)ずから千の秋
過ぎゆく客(たびびと)は酒を携えるのを知り
山を看(み)て竟(つい)に浪(なみ)のように遊ぶ
呉王(ゴオウ)が歌い舞った後(ところ)
首(あたま)を回(めぐ)らせば人を愁(うれ)え使(さ)せる
清湖除夕
三載離家一剣孤
何期此夜客清湖
労臣敢作窮途恨
濁酒聊尋野店沽
灯火長歌愁鹿鹿
樽前沈酔唱烏烏
椒花偏向他郷頌
軮掌年年笑老父
清湖(セイコ)にて夕(とし)を除(おし)む
三載(さんねん)家を離れ一つの剣のように孤(ひと)り
何で期(し)るのか此の夜に客(たびびと)となって清湖(セイコ)にいると
労(いたわ)しい臣は敢えて途(みち)が窮まった恨みを作(なぐさ)めようと
濁り酒を聊(すこ)し尋(もと)めて野の店で沽(か)う
灯(ともしび)の下(もと)で長い歌をして鹿鹿(るいるい)と愁(うれ)い
樽(たる)の前で沈み酔い烏烏(おうおう)と唱える
椒(さんしょう)の花は偏(ひたす)ら向かう他郷の頌(うた)
軮(にな)い掌(ささ)げて年々老いゆく夫(ひと)を笑う